気ままな日記
お母様の形見の急須
先日、急須の帯茶漉し網交換サービスについてのお問い合わせがありました。
※「帯茶漉し網交換サービス」とは宇幸窯の急須をお使いの方で網が外れたり汚れてしまった急須の帯茶漉し網を無償で交換するサービスです。詳しくは「帯茶漉し網の交換サービス」をご覧ください。
お客様の急須の底には「宇幸」の刻印が有るそうなので、宇幸窯の急須に間違いないです。どのタイプの急須かは分かりませんが、もちろんお受けする旨を伝えました。
そして急須の入手経路に興味があったので「当店のサイトでお買い求めになられたのですか?」とお聞きしたら「母の形見の急須なんです...」と
今まで何度か帯茶漉し網交換サービスをさせていただきましたが、このような要件での網交換は初めてでしたので、お客様の思いにとても感銘を受けました。
翌日にお客様の急須が届いたので「どんな急須なんだろう?」と、ドキドキしながら梱包を開封しました。
なぜドキドキするのかと言いますと次のような思いがあるからです。
・いつ頃(最近から三十数年前)製造したどのタイプの急須なんだろう?
・お客様はどんな風に急須を使われてきたのだろう?
どちらにも共通する思いは、里帰りする子どもを迎える気分になるからです。
そして包みの中から現れた急須を見てびっくり! それは宇幸窯で20年以上前に製造した急須だったからです。
それは朱泥生地の表面に水色の釉薬を掛けて焼成した急須で、現在宇幸窯では行っていない技法で作られた急須でした。
年数が経過しているはずなのに表面には釉薬の光沢が残り、急須の中も手入れが行き届いていて、とても大切に使われてきたのが一目で分かりました。
網の状態ですが、若干茶渋がついているのと網の継ぎ目が外れかかっていたので、網を外して急須の内部を洗浄してから新しい帯茶漉し網を取り付けました。
最後に再生した急須を梱包し、もう一度お客様の元にお返しさせていただきました。
里帰りした子どもをもう一度送り出す思いと、お客様には「お母様の形見の急須として今後も末永く使っていただけたら嬉しいな」という思いの混じった感慨深いお仕事をさせていただきました。